2018年6月21日木曜日

寸評 『白雪姫と鏡の女王』



見た理由:『ジャコメッティ 最後の肖像』見た後に友人と一緒に二回戦するかーって上映会を始めたが、候補の中で二時間切ってる映画がこれくらいしかなかったのでうっかりこれになった。

感想:ちょっと前にターセム・シン監督が作った白雪姫とか絶対面白いじゃん!って見ようとしたときにあんまりにも評判が悪かったので見るのやめてた記憶があり、実際見るとオチ以外はそこまで悪くもないなーという感じだった。そして今見るとそんなに評判悪くなくて当時どこのレビューを見たんだろうってなった。謎。白雪姫映画としては2011年のスノーホワイトが本当に見なければよかったと後悔するほど合わなかったので、アレと比べたらなんでも面白いだろうとは思っていたけど、局部的にはスノーホワイトのほうが優れているなあと思う部分もあったりで色々です。映像的には間違いなくこちらに軍配が上がるのですが。

お話:まず良いところとしては小人の解釈が非常に面白かったです。白雪ちゃんのキャラもとても良かった。追剥ぎ姫とか結婚式に殴り込み姫だとかそれだけですでにして面白い。コメディ苦手なんですけどノリ的にギリギリセーフだったので比較的ストレスなく見られました。悪いところとしては、コメディ作品なのでどこまでこっちもマジになっていいもんかなってところもあるんですが、最初に入る女王のモノローグとオチがあんまり合致してない気がしてそこが気になってしまいました。全体的には楽しめたんですけど。個人的になんですけど白雪姫という物語が持っている問題点は、突然王子様がやってきて物事を解決!という部分よりは、若さとか美しさに絶対的な価値があるとかそういうエイジズムっぽいとこになるのではないかなーと思っていて何かその辺がスルー気味だったなーとは思いました。そこにしっかり踏み込んだ上で何故か最終的にスルーしたスノーホワイトという猛者もいらっしゃいましたのでそれをやるくらいなら触らないほうがいいんですけど、女王と白雪姫のダブル主人公ものっぽい感じなので二人の価値観がバシッと逆向いてた方が分かりやすかったかなとか。スノーホワイトの女王様と比べてこっちの女王様は悪役エンジョイ勢的なところがあって若さにも美しさにも自分で勝手に縛られてる人なので比較的どうでもいいんですが、割と冒頭モノローグで期待してしまったのでオチ結局それかい的な残念さがありました。とはいえマレフィセントみたいな話になってもそれはそれでなんか違うんだけど。あとは最後の方に出てくる知らない設定が多すぎたのでそこがちょっとどうなんだろうなという感じでしたね。最後の15分でだいぶ首を傾げたぞ!
やりたいことは分からないでもないんだけど毒リンゴの場面いらないんじゃないかな…

画面:ターセム・シンなので安心して見てました。今回はファミリーで見られるファンタジー作品でグロいシーンがないのでセーブしてるなと思いました。しかし時々隠し切れない何かが漏れ出ていた気はしました。ところで『エバー・アフター』の悪いお姉さんの時も思ったんですけど女王様が仮装舞踏会でクジャクのコスプレしてましたけど(というか基本衣装とか調度品とかクジャクモチーフのものが多かったですけど)華やかな方のクジャクってオスな気がするんですけどいいんですかねそれで。
この監督、どうせCGだろうなと思ったところが意外なほどCGじゃなかったりするというイメージがあるのですが今回はどんなものなんでしょうか。メイキング見たくなるな―。

配役:『ザ・セル』の主人公なんですね女王様。全然分からなかった……とにかく全体的にあの華やかな服を着こなすには顔面の圧が必要なんだなと思いました。白雪ちゃんは眉毛が可愛くて最高でした。この手の映画色々見てると表情豊かなタイプの主人公のほうが基本的に好感度は高くなるんだなと思います。王子様は半裸に剥かれたり逆さ吊りになったりうさちゃんになったり半裸に剥かれたり子犬ちゃんになったりろくな目に合ってないけど196センチあるから小人との対比が面白かった。意図せず『ジャコメッティ』と同じ日に見てしまったので振れ幅がでかすぎて何だこれってはなりました。映像面の話にも絡んでくるんですけど、小人は実際に小人症の俳優さんが演じていらっしゃるので、その辺もスノーホワイトとはいろいろ姿勢の違いがあって面白いですね。










余談:コレわりと致命的なネタバレなんですけど、ショーン・ビーンって死ぬ役と悪役が多いって聞いてたんですけどわたしの見る映画だと「本人に非があるわけではないのだけれどクソの役にも立たない(もしくは余計なことをする)父親役」で出てくる率の方が高い気がしています。たぶん最終的にいろんなところを削ったから終盤に怒涛の知らない展開な作品になっちゃったんだろうけど、このキャラってオチにおける最ズッコケ要因だったのでむしろ削ったほうがよかったのでは……?

余談2:『ザ・セル』の時はインド映画感なかったのに今回はエンドロールが完全にインド映画になっていた。
ギャガ公式がアップロードしてくださっています。
エンディングでいい感じのダンスが入るとなんかもう細かいことはどうでもいいかという気分になれて良いですね。

字幕で見たけど吹き替えでもう一周したいなとは思っています。なにぶん深見梨加の女王様キャラが大好物なものでもうそれだけである程度は楽しいんじゃないかな…

寸評『ジャコメッティ 最後の肖像』


見た理由:友人と「早くアンクルの2出ないかな」みたいな話をする→そういえばアンクルくらいの時代でアンクルのイリヤの人が出てるジャコメッティ映画あるらしいって話題になる→調べる→明日近所で上映してるじゃん→じゃあ見に行くか
今までで一番軽いその場のノリで見に行った映画かもしれない

感想:映画に対する前知識もそのレベルで、かつジャコメッティに対する前知識も細長い彫刻作る20世紀の彫刻家、くらいのレベルで見てもちゃんと見られた。作品とか作風知らなくてもジャコメッティが成功した作家だってことくらい知っておけば大丈夫(かつその辺は本編でしっかり説明されるので本当に何もなくて大丈夫)エンタメ濃度は低いんだと思うけどそこまで見づらい感じでなく、突然興奮するジャコメッティを眺めているうちに映画は終わった。畳み方はすさまじかったけどたぶん原作通りなのでそれはそれ。

お話:作中で絵のモデルになっている人が書いた手記が原作なのでたぶん概ねその通りに進む(ノータッチなのでそのうち読みたい)。起伏は少なくオチも劇映画だと普通しないような感じだけど無駄に感動の展開とかを挿入していないので好感が持てた。

画面:ジャコメッティのアトリエとか当時の街並みとか作り込んであって、ファッションも車も地味なとこにお金かかってそうだなーという感じ。鑑賞後にまず話題になったのが滅多に見ないくらい人間の顔面パーツがアップになっててすごかったってところと、フランスパンあんな運び方して衛生的に大丈夫なのかな……ってことだった。大丈夫なんですかね実際。

配役:ジャコメッティやってるジェフリー・ラッシュって割と自分が見る映画で出現率の高い人なんだけど 、だいたいちょっと悪い人かちょっと偉い人の役なので主人公やってるのは初めて見た気がする(話の展開上実質主人公みたいになってた時はあったけど)。全体的には妻役の人も娼婦役の人もちょっとクセが強いタイプの魅力的な顔立ちの人が多い中で、古典彫刻めいたアーミー・ハマーが逆に浮くって感じの配役なのかなと思ったりしました。それにしても写真見る限りジャコメッティはめっちゃ似てるな……

余談:ジャコメッティは日本にもいろいろありますが大原美術館には細長いジャコメッティと細長くないジャコメッティと両方いらっしゃるので地味にお得感があってお薦めです。あと弟のディエゴが作った猫の給仕長もめっちゃかわいいのでお薦めです。そっちは松岡美術館に常設でいらっしゃるとか。




 ところで日本語版原作本これもしかして絶版なんですかね……

2016年6月1日水曜日

マレフィセント


童話パロディと呼ばれるものには名前借りただけじゃねえかぶち殺すぞみたいなやつとか下ネタ突っ込んだだけじゃねえかぶち殺すぞみたいなやつとか色々あるわけですが、稀にすごくパロディとしても物語としても出来のいい作品もあって、特にドナ・ジョー・ナポリの作品なんかは安定して面白いと思います。

中でも『逃れの森の魔女』はとびぬけた傑作で、二百ページほどの短い物語の中で『ヘンゼルとグレーテル』の魔女がなぜ生まれ、そして何故あんな結末を迎えることになったのか、という壮大な裏話が見事に納得のいく形で捏造されていました。

ドナ・ジョー・ナポリは他の作品でも魔女を主人公に魔女目線での童話の顛末を書いていることが多く、まあその辺は一方的に悪役にされてきた魔女の色々とかちょっとフェミニズムっぽい色とか色々あるわけですが、その辺は現代から見た童話の再解釈としてはものすごく面白く妥当なものだと個人的には思っていて、ともかく『マレフィセント』の登場でディズニーもようやく『逃れ』みたいなお話が創れるようなったのかと感心していました。


実際見てみたらそんなことはなくて結局ディズニーはディズニーでした。


まず『マレフィセント』の基になった『眠れる森の美女』は、一応元々存在する童話を基にしたことになってますが、わりかしオリジナル成分が多く含まれています。幼い頃に見て「百年寝てねえじゃん!」って元気よく突っ込んだのはいい思い出です。
一晩くらいしか寝てない眠り姫という新しいジャンルを打ち出したのは勿論、何故かドラゴンと王子様の壮絶なバトルなんかが挿入されていて、通常の童話ではクソほどの役にも立たない王子様が中世騎士物語の騎士程度には見せ場があるという作品でもあります。フィリップ王子地味にディズニープリンセスものの中では相当身体張ってる王子様だと思います。

『マレフィセント』は童話からの、ではなくディズニーアニメ『眠れる森の美女』からの映画化なので、まあこれに忠実なお話になり、なんだかんだドラゴンと王子様が戦うんだろうな、と思ってました。


実際見てみたらそんなことはなかったです。


マレフィセントを善人として描くために、王様はドクズになり、三人の妖精はド無能になり、王子様はクソの役にも立たない存在になったわけです。キスしても相手が目覚めない王子様なんて白雪姫の王子様よりも役に立ってないのでディズニークソの役に立たない王子様ランキングの堂々たる一位に就けるレベルです。ドラゴン退治の王子様が魔法で空中浮遊させられてるだけの存在になってるのすごい……

ディズニーは「悪人」を作らないと気が済まない、っていうのがかなりの悪癖だと思っていて、例えば『リトル・マーメイド』なんかは最後をハッピーエンドにしてしまったということよりも「悪い魔女」を生み出してしまったことが問題じゃないかと個人的には考えています。
アンデルセンの『人魚姫』は、実は悪人の出てこない作品です。 魔女は皆に嫌われている不気味な存在かもしれないけど、作中では人魚姫との取引に応じただけであり、けして悪人としては描かれていません。王子も、勿論隣の国の王女も悪人ではないので、あの悲劇で一体誰が悪かったか、という話になれば一番悪いのは人魚姫だと思います。というかまあ実際水の泡エンドだったとしても自業自得です。
そこにディズニーは「悪巧みする邪悪な魔女」を作り、それを打倒すハッピーエンドを用意してしまった。原作の過剰に宗教的な要素を打ち消すためにそのままの話で作るわけにはいかなかったんだろうけど、意味不明に悪役を負わされてしまった魔女のことを考えると色々納得のいかない話ではあります。
マレフィセントもまた、ディズニーに作られてしまった邪悪な魔女と言えるでしょう。
元々の童話では、王女に呪いをかけるのは、誕生祝いに呼ばれなくてなんか腹立ったのでノリでかけたようなものであり、たぶんあの人自分の命かけてまでお姫様に粘着したりしないと思うんですよね。
まあ童話の登場人物の行動なんて真面目に考えても仕方ないんですけど。
でもなんかそこまで、読者が思う程彼女はお姫様のことを特別に思ってないんじゃないかと。妖精なんて自然災害みたいなものだし。
ヒロインと悪役って構図があるからマレフィセントがオーロラにすごい粘着っぷりを見せていてもなんかそこまで違和感ないようで、よく考えるとなんでこの人そんな必死なの……ってなる感じがこう。
で、だからそのオーロラへの粘着の理由を父親との因縁とか、あとはまあ育ってるのを見て母性がわいたとかなんかそういうのをつけてきたのはすごい面白いなと思いました。

でもだからって王様がドクズ野郎でドクズ野郎のまま無残に死ぬ話にしなくてもいいだろ……結局対象が魔女から父親になっただけでやってること変わらないじゃん……アニメの時の楽しい王様はどこ行ったの……

個人的に期待してたのはマレフィセントの内面も描きつつ、しかしなんやかんやで王子に倒されてやることでオーロラを開放するてきななんかこう……いちおうアニメのオチと繋がる方向のこう……それこそ逃れの森の魔女的な……まさかここまで脱線したまま線路なんぞ知るかとばかりに突っ走って知らないところに至る映画だとは思ってなかったんで後半ずっと置いてけぼりな気分ではありました。

なお長々と書きましたが個人的にこの作品はそれなりに面白かったと思ってます。相変らずディズニーはディズニーだなと思いながらも昔の作品と比べると確実に色々マシになってるし、映像的にもぼんやり楽しかったし。こっちが期待しすぎたのが悪いだけだし。ロリ時代のマレフィセントちゃんのデザイン最高だったし。ロリフィセント主人公でスピンオフ二時間映画ください。

今後まだ色々な実写枠を抱えているようなのでじわじわマシになっていくことを期待しつつ基本的にはさすが金かかってんなーくらいのノリで観ようと思ってます。

ケリー・ザ・ギャング

ケリー・ザ・ギャングのゆかいな仲間たちを紹介するぜ!
人妻を寝取ってる間におうちが大変なことに!リーダー、ネッド・ケリー!
女装して幼馴染を殺す!人妻寝取るマン!
お兄ちゃんについて行ってたら死んだ!ケリー弟!
何かいつのまにか家にいた人!
以上だ!


人妻寝取るマンが二人いるせいで知人に「なんでお前の勧める映画は人妻寝取ってばっかりなんだ」って言われたけど『トロイ』はしょうがないだろトロイは。

原題は「Ned Kelly」。実在したブッシュレンジャー、ネッド・ケリーとたのしいなかまたちを主人公にしたオーストラリア映画です。
ネッド・ケリーはオーストラリアでは超有名人らしいので、おそらくその人生についてある程度知っていること前提で見る映画だと思います。こう、二時間スペシャル坂本竜馬的な……
物語の始まりから終わりまで、ネッドさん15歳から25歳までの十年間を全てヒース・レジャー一人で賄うというあたりも二時間スペシャル時代劇感あります。
一応原作が存在して、「Our Sunshine」という本らしいのですが、日本語訳がないためこれがどの程度忠実な伝記なのかはちょっと分かりません。確実に史実ではなさそうな部分が幾らかあるんですが、この本で盛ってある要素なのか映画化にあたって盛ってあるのかも不明です。

例えば息を吸うように人妻寝取るあたりとか、ロマンスの展開としてはド王道なんで仕方ないけど終盤一切絡まないので創作かなーと思ったりしてます。詳しくないので史実だったらごめんなさい。
あと幼馴染絡みの色々とかはけっこう創作入ってるんじゃないかなって気がしました。あの辺はすごい綺麗につながってて好きです。

舞台は1870~1880年で、衣装みると主人公たちがジーンズ穿いてるシーンがあるのであー近代だなーって感じがするんですが基本移動手段馬だし最後は甲冑着て戦うしこれもしかして中世騎士物語なのでは?って感じになりますね。実際筋立てとしてはそんな感じのところも多いんですけど。

この手のアウトローってアメリカのビリー・ザ・キッドなんかが有名ですが、あっちは改めて読むと割とただのクズなのに対してこっちは比較的ヒーローやってるんでけっこう性質が違いますね。日本でもケリーさんもうちょい有名になってもいいんじゃないかなって思いながら観ました。

ちょっと変わった部分として、死の描き方。この作品には三回「死」を描いたシーンがあります。その三つともがとても印象的で、すごく辛いシーンになっています。
全てのきっかけになる警察殺し、唯一の警察以外へ行った殺人である友人殺し、そして最後の戦い。なすすべなく虐殺されていく一般市民。おそらく親友を射殺した時の影響もあり、積み重なる一般市民の死体を見て精神に異常を来たして撃ち抜かれるジョー、銃弾からは逃れたものの、炎に捲かれて逃げられず、泣きながら自害する弟たち。これらのシーンもなんかもっと英雄的に描けたはずだけど、そうはしない。序盤の敵対していた相手が死ぬシーンさえ、というかむしろそこが一番かと思うくらい、とても見ていて辛い仕上がりになってるんですよね。これはこの作品の重要な特徴だと思います。
流れるように行われる強盗など通常シーンの軽やかさと、死を描いたシーンの異常な重さのギャップ。少し不思議な感覚のある作品ですが、ここがかっちりとハマれば、きっとこの作品のことが好きになるでしょう。

ところでこの映画バルボッサ的な警視総監とターナーくん的なジョーさんが出てるんですが、この映画の撮影時に既にバルボッサに決まっていた警視総監が現場に台本持ち込んでてそこのつながりでジョーさんがターナーくんになったらしいですよ。こっちの映画だとアウトロー側と体制側というかが逆な感じで微妙に面白い。

2016年2月23日火曜日

アン・ハサウェイ 魔法の国のプリンセス


この作品『Ella enchanted』(2004)、直訳するとごく普通に『魔法にかけられたエラ』なんですけど映画版は『魔法の国のプリンセス』、原作も『さよなら「いい子」の魔法』というなんかすごい邦題になっています。
映画邦題についてはDVDが発売されたのが割と最近の2013年なので、2007年のディズニー映画『Enchanted』=『魔法にかけられて』との混同を避けたかったのかもしれないんですが、それにしても魔法の国は百歩譲っていいとしてもプリンセスはないんじゃないかな……主人公お姫様じゃないし!ネタの傾向としては分かりやすいけれども!
なおdビデオストアで配信されてるバージョンは『魔法にかけられたエラ』ってまともなタイトルなんですけどこっちは字幕翻訳がすごくすごすぎてそれはそれで問題があります。どうしてそうなったの……

原題・邦題どちらもタイトルだけでは分かりにくいですが、『シンデレラ』を下敷きにした作品です。
ディズニー傘下だったミラマックスの作品なので、ある意味「ディズニー実写シンデレラ」枠では2015年のアレの先輩にあたるのかもしれません。まああんなにお金かかった作品ではないですけど。
原作が絶版でお値段がそこそこに高騰してて手が出なかったんですが、近所に児童書に強い公立図書館があったのでなんとか読むことができました。

まあ要するに『シンデレラ』を下敷きにした物語を書こうとした作者が、原作シンデレラっていい子すぎね?という疑問を抱いて、「いい子のシンデレラ」の物語でなく「いい子にならざるを得ない呪いをかけられているシンデレラ」の物語を書いた、というものです。
現代における童話パロディ本には比較的よくあるパターンのものと言っていいでしょう。しかし説教臭くなりすぎてあんまり面白くないものも多い童話パロディジャンルにおいて、そこそこ面白さと説教臭さのバランスが取れている、ヤングアダルト小説としてそれなりに良作と言える作品だと思います。手元に欲しいので是非とも再販していただきたい。

で、この映画はそれを素直に映画化した作品かというと一切そのようなことはなく、謎の付加要素が加わっています。
まあ映画化するにあたって仕方なかったんだろうなみたいな簡略化もたくさんあるのですが、何を意図して付けたのか分からない部分があって、
主には
・60年代から70年代のポップソングがふんだんに使われたミュージカル映画になっている
・それに伴って作中の世界観が70年代と中世が合体事故を起こした感じになっている
という部分です。なんでだよ。
この大雑把な予告を見るとだいたいノリは分かっていただけると思いますが



当然のことながら原作には一切ない要素なので、これはもう監督か偉い人か誰か分からないけど映画作った人の趣味だと思うんですけど。 内容見てると概ねティーン向けの映画だと思うんだけどいいのかこれで。
まずオープニングからエレクトリック・ライト・オーケストラのStrange magicですからね。洋楽知識ほぼゼロなのにどっかで聞いたことある曲だなと思ってしばらく首をひねってたんですけど『ヴァージン・スーサイズ』の予告で使われてた曲ですね。まああれは原作からして音楽指定されてるんでいいんですけどなんでシンデレラのパロディ映画が『ヴァージン・スーサイズ』と同じ選曲になるんだよ。

細かく色んな曲が使われていますが、オリジナル音源のBGM使用でなく作中で主人公が歌う重要な曲はQueenのSomebody to loveと、エルトン・ジョンとキキ・ディーのデュエット曲Don't go braking my heartです。
ミュージカルシーンはMovie Clips にあるのでyoutubeで見ることができます(合法)。


「Somebody to love」 これでピンときたら視聴をお勧めする

  
「Don't go braking my heart」 とてもたのしそう
(ネタバレもクソもないような作品ですが一応ラストシーンなので注意)

まあどっちも映画観るまで知らない曲だったんですけど、本編見るとちゃんと歌詞がきっちりシーンに合った完璧な選曲がされていることが分かり、中々見事なものです。他にもこの辺りの洋楽文化に詳しい方ならニヤリとできる要素がたくさんあるのではないでしょうか。

あと関連作品というか、影響を受けてる先として間違いなく『エバーアフター』があります。原作にはなかった王位継承に意欲のない王子を導き、目覚めさせるヒロインという描写がわりと本当にそっくりで、並べてみるとふわっとシンデレラ映画の系譜を感じることができます。
つまり、原作である『さよなら、「いい子」の魔法』と『エバーアフター』を足して4くらいで割った後にできた空白に60年代ポップソングをギチギチに詰め込んだような作品です。どう考えても楽しい。

本編は割と脳味噌をからっぽにしてぼーっと見られる感じの映画です。社会的なネタなども織り交ぜつつ、しかし細けぇことは良いんだよ!とばかりに音楽とノリと勢いで突破していく感じは好感が持てますが原作はそんなこともないんで原作者とか原作ファンはこれで納得したのかな……
めんどくさい呪いをかけられているけど気合いでなんとかする上にめっちゃ殴り合いに強いヒロイン・エラ、良い人だけどちょっとアホの子がすぎる、けどめっちゃ殴り合いに強いしちゃんと成長するチャー王子、喋り方が完全にディズニーアニメ悪役のソレで本当に三次元か不安になってくる完成度の高い悪役・伯父上、便利なようで実はクソほども役に立ってない喋る本、邪悪なドラえもんみたいなキャラデザの食人鬼、巨人娘と妖精さんの体格差バカップル、オープニングに一瞬出てくるだけなのにジャケットにちゃっかりいらっしゃる一角獣さんなど色んな意味で濃いキャラが揃っています。
特に映画版完全オリジナルキャラクターである悪い叔父様(王子の父の弟)は、どう考えても物語を単純な勧善懲悪化してしまうディズニー的悪い癖によって生み出されたキャラなのにとても魅力的かつ、原作の終盤に見られる小説だから可能だった「エラの懸念」の表現を映画に落とし込むための最適解として映画の中で輝いていました。叔父様が画面にいると必ず面白くなるのずるい。
吹き替えもとてもよかったです。特にヘビさん。

ディズニーも最近行動力のある現代的なプリンセスの制作に力を傾けているようですが、この作品のエラちゃんはそういう意味でも中々素晴らしく新時代のヒロインしてたと思います。

まあ唯一のオリジナル曲であるエンドロールの「It's just make believe」が歌詞の内容でそれらの要素を台無しにしていてちょっとどうかと思うんですけどね!曲としては楽しそうで好きなんだけど歌詞!

しかし小さい子が見ても大きいお友達が見てもそれなりに楽しめそうな安心安全アホな内容で、かつ特定の音楽が大好きな一部の大きいお友達が見るとすごく楽しい、エンターテイメント性の高い良作だと思います。これ以上何も考えたくない時にいかがでしょうか。

クソ邦題にもある通り、「シンデレラ」であるエラ役はアン・ハサウェイ。
ウィキペディアにプリティ・プリンセスで売れて以来いわゆるプリンセス役ばっかりで悩んだみたいなこと書いてあったけど作品リスト見てもあれ以外だとプリンセス映画らしきものってこれだけじゃね―かな……。厳密に言うとこの映画のシンデレラは王子様と結婚後即王子の即位で王妃になるはずなのでプリンセス期間ないですけど。
まあ実際「プリンセス」やるのに説得力のある圧倒的なかわいさなんですけど、馬に乗るわドレス姿での戦闘はあるわ歌うわ踊るわでプリンセスになるのにはいろんなスキルが要って大変だなあと思いました。長い髪をひらひらさせながらのバトルシーンやダンスシーンは問答無用で目に楽しい。

チャー王子役はヒュー・ダンシー。
この作品を見るちょっと前にドラマ『ハンニバル』にドハマリしたんですが、作風のギャップが激しすぎてお名前を照合するまでグレアムさんと同じ人だって気付きませんでした。10年の月日は人を王子様から被虐体質の捜査官に変える。
『ハンニバル』では大体曇りっぱなしなのでこっちで楽しげに踊ってるとこと交互に見ると落差で楽しいですね。地獄のセット視聴おすすめです。


2014年12月17日水曜日

ブレス・ザ・チャイルド

時期的にクリスマスに丁度よさそうな作品を。


 

冒頭はクリスマス、ベツレヘムの星が出た夜、主人公の女性のもとに音信不通だった妹が生まれたばかりの赤ん坊を連れて現れる。父親も分からないその子供を残して薬中の妹は即座に失踪、 子供に恵まれずに離婚した過去のある主人公はその子を我が子のように大事に育てる
それから数年、成長した少女と主人公のもとに妹が「夫」を連れて現れ、強引に少女を連れ去る。実は少女はなんか不思議な力を持った特別な子供で、悪魔崇拝カルトの首領である男が彼女に目をつけ、自分の配下にするか殺すかしようとしていた。
警察に駆け込んだ主人公の話を聞いてその誘拐がただの親権争いでなく、ここ最近同じ日に生まれた子供を次々に殺している連続誘拐殺人と同じ犯人ではないかと考えたFBI捜査官(元神父)は主人公に協力して少女を救い出そうとがんばる


みたいなお話で、内容は非常に宗教臭いです。
あらすじを読んでカルト宗教による少女誘拐!連続殺人!FBIの捜査!みたいなサスペンスを期待してたんですけど、なんかキリストっぽい生まれ方をした少女を中心にしてヘロデ王っぽいことが起こりつつ神様的なアレと悪魔的なアレの奇跡合戦みたいなのが始まって、何か俗っぽいものを期待してすいませんでしたって気分になりました。

この映画の制作はアイコンプロダクションズというところです。
アイコンっていうのはキリスト教の正教会をメインに使われる宗教画、イコンの英語読みであり、マークはイコンの目玉部分のアップです。
そして名前の通り 、全体的にキリスト教分の高い作品を作っているようです。有名どころだとキリストが十字架にかけられるまでを延々と描いた『パッション』とか。
その時点で察するべきと言えば察するべきでした。

サスペンスやミステリーとしては成り立たせる気がないような脚本や、さも重要そうに登場しておいうてその後特に何の役にも立たないサブキャラクターたちなど微妙ポイントが多い作品なのですが、一番の問題は悪魔と神様の表現です。
2000年公開の映画なのでまあ2000年の安い映画に出てくるくらいのしょぼいCGで悪魔的な何かが表現され、同様にしょぼい光で神様的な何かが表現されます。ギャグとしてもつらい絵面なのですが、それを真面目にやられるのでこちらはどういう反応をしていいのか分かりません。
原作は小説らしいので、この辺りのことは原作の方ではまともな表現の可能性は高いです。
しかしこのお話の中では何回か奇跡が起こるのですが、クライマックスだけでも奇跡オチって納得いかないことが多いのに作中で割と奇跡セールを行っているせいでそんな気軽に奇跡起こしていいの……?気軽に奇跡起こせるならもう最初から神様的なものがなんとかしてくれよ……という感情がどうしても湧いてきます。みんなに平等に奇跡が起こるならともかく主人公は助かるのに協力者の脇役はわりと無残に死んだりするのがどうにも納得いきません。
悪魔的なものとか神様的なものとかめっちゃ登場して奇跡も起きたけどそんなに腑に落ちない話でもなかったコンスタンティンってもしかしてかなり出来のいい映画だったのではないかと錯覚しかけるほどでした。

とはいえ、これはキリスト教文化になじみのない日本人の感想。感覚的に理解できていない部分も多いだろうし、キリスト教圏的にはこれでいいのかもしれない。なんだかんだ欧米はキリスト教人口多くてキリスト教に対する批判の入った作品のレビュー荒れたりするし、これは本国だと高評価なのかもしれない……
と思ってRotten Tomatoes見たら3%という数字を誇っていたのでやっぱり駄目なものは駄目でした。

何でこんな映画を観てしまったかというとひとえにdビデオストアで12月末までの配信だったからであり、内容はアレだったけど幼女がとてもかわいかったので個人的にはそれなりに満足しています。幼女がかわいければ何でも良い方、クリスマスが暇なのでクソ映画でも見ようかと思っている方には自信を持ってお勧めできる一本だと思います。いいクリスマス映画は世の中に沢山ありますが、ここまで微妙な気分になれるのはもはや一つのセールスポイントで誇っていいと思われます。あそこのサイトなんでこんなもの配信してるんだろう。

2014年7月20日日曜日

ハウンター




特に期待せず観たら割と面白かった作品。トレイラーも観ないレベルに前情報を入れることなく観たのが良かったのかもしれません。
お話自体はそこまで独創的ではないかもしれないけれど主人公のポジションが特殊だったのでけっこう楽しめました。
お話のノリとしてはホラーとかサスペンスとかいうより児童書にありそうなネタだなあとか。別にラブロマンス要素とかはないけど、ところどころが主人公である高校生くらいの少女と同年代向けに作ってある感じがしたので海外ヤングアダルト系小説を読むのが趣味の人は楽しめるかもしれません。



以下全編に渡るネタバレが含まれます












まず冒頭は、主人公が毎日16歳の誕生日の前日を繰り返していることに気づく、というループ物を思わせる始まり方をします。ループ物は大抵「いかにしてループから抜け出して日常に戻るか」という目的に向けて進行していくのですが、この主人公はどうも自分たち家族は既に死んでいるのではないかという結論に達します。わりと序盤の方だったので主人公の思い込みで別にそういうわけじゃないオチがつくのかと思いきやマジで死んでいました。どおりで主人公の瞳孔が開きっぱなしだと思った……
某有名スパニッシュホラーならこの時点で衝撃のラストであり「ここがリンボでないならどこなんだろう……」とか言いながら完なのですが、このお話ではまだ結構な序盤なので、戻るべき日常はないものの舞台となる家には主人公の属する亡霊一家以外にも沢山の亡霊が家に憑いており、更に主人公の死(80年代)から数十年の時を経た「現在」の一家もまた危機にさらされていることが分かり、主人公は自分と同じように最期の一日を繰り返し続ける霊たちの救済と、自分に助けを求める「現在」の少女一家を助けるために、そして自分たちを殺した犯人に報復するために奔走することになります。

この「最期の一日を繰り返し続ける亡霊」っていうのはハウフの『隊商』にある幽霊船の話とかにも出てくるんですけど西洋の幽霊モノ界隈ではけっこう普通のことなんですかね。

犯人というのはどうも主人公の家の前の所有者であり、少年時代に両親を殺してその後もたくさんの少女たちを誘拐して殺し、死後もその家に住んだ人々をとりころして魂をコレクションしているようです。一家心中がおこったような築数十年の家を普通に売るなよ、買うなよ、と思わなくもないんですがとんでもないいわくつきの家が普通に売られているのがホラー映画フィールドなのでその辺はまあ仕方ないです。犯人の背景は断片的な映像などで示されるだけなのですが、それもまあ犯人について細部まで理解する必要はないからでしょう。何故自分の死後も魂コレクションができたのかとか微妙に謎ですがこのお話は幽霊少女が現代の少女を救うために奮闘するってところが重要な話なのでその辺もまた些細なことです。

何かしらの原因で現在と過去が繋がり、同じくらいの年ごろの子供たちが交流して、それで何かしら問題解決とか成長っていうのは先にも触れたとおり児童書で非常に多いネタです。古典では『トムは真夜中の庭で』とか、最近の作品では『チェンジリング・チャイルド』とか。ただ当然のことながら普通は感情移入しやすいように「現代」の子供を主人公にすることが多いです。死亡済みの80年代少女の視点で現代の少女を助けに行くというのはなかなか面白かったです。
主人公は家族全員が自分たちの死に気付いた時点で成仏することもできたはずなのに、他の魂や「現代」の少女を救うべく立ち上がる姿は無駄に英雄的でした。別にそこまで「現代」の少女と交流があったわけでもないのでその辺りの動機づけはちょっと弱かったような気もします。
自分たちはもう数十年前に死んでるんだから別に犯人を斃したところで生き返れるわけではないのですが、その色々詰んでる状態に絶望するよりも「もう死んでるからこれ以上何ともない」と清々しい開き直りかたで危険につっこんでいく主人公は素晴らしいです。

細かい疑問点は残りつつオチも割とハッピーエンドなので清々しくみられました。 この手のオチは割と宗教観の差によって意見が割れたりするのですが、この話はもうスタート地点から死んでるのでけっこうどういう立場から見てもハッピーエンドになるんじゃないかと思います。


演出次第でいくらでもつまらなくなりそうなお話なのに割と全編楽しめたのでけっこう上手い作品だと思います。

気になった点は
・ピーターと狼がすごい緊張感そいでくる
・主人公の服に顔がついてる
の二点です。
ピーターと狼はなんかわざとかなって気もするんですけど、主人公の服についてる顔がちょくちょくガラスに映り込んだり暗闇で浮いたりしてそこが無駄にホラーっぽいんであの服じゃないほうが良かったんじゃないかと思う次第です。なんか80年代に流行してた服だったりするんだろうか。