2016年2月23日火曜日

アン・ハサウェイ 魔法の国のプリンセス


この作品『Ella enchanted』(2004)、直訳するとごく普通に『魔法にかけられたエラ』なんですけど映画版は『魔法の国のプリンセス』、原作も『さよなら「いい子」の魔法』というなんかすごい邦題になっています。
映画邦題についてはDVDが発売されたのが割と最近の2013年なので、2007年のディズニー映画『Enchanted』=『魔法にかけられて』との混同を避けたかったのかもしれないんですが、それにしても魔法の国は百歩譲っていいとしてもプリンセスはないんじゃないかな……主人公お姫様じゃないし!ネタの傾向としては分かりやすいけれども!
なおdビデオストアで配信されてるバージョンは『魔法にかけられたエラ』ってまともなタイトルなんですけどこっちは字幕翻訳がすごくすごすぎてそれはそれで問題があります。どうしてそうなったの……

原題・邦題どちらもタイトルだけでは分かりにくいですが、『シンデレラ』を下敷きにした作品です。
ディズニー傘下だったミラマックスの作品なので、ある意味「ディズニー実写シンデレラ」枠では2015年のアレの先輩にあたるのかもしれません。まああんなにお金かかった作品ではないですけど。
原作が絶版でお値段がそこそこに高騰してて手が出なかったんですが、近所に児童書に強い公立図書館があったのでなんとか読むことができました。

まあ要するに『シンデレラ』を下敷きにした物語を書こうとした作者が、原作シンデレラっていい子すぎね?という疑問を抱いて、「いい子のシンデレラ」の物語でなく「いい子にならざるを得ない呪いをかけられているシンデレラ」の物語を書いた、というものです。
現代における童話パロディ本には比較的よくあるパターンのものと言っていいでしょう。しかし説教臭くなりすぎてあんまり面白くないものも多い童話パロディジャンルにおいて、そこそこ面白さと説教臭さのバランスが取れている、ヤングアダルト小説としてそれなりに良作と言える作品だと思います。手元に欲しいので是非とも再販していただきたい。

で、この映画はそれを素直に映画化した作品かというと一切そのようなことはなく、謎の付加要素が加わっています。
まあ映画化するにあたって仕方なかったんだろうなみたいな簡略化もたくさんあるのですが、何を意図して付けたのか分からない部分があって、
主には
・60年代から70年代のポップソングがふんだんに使われたミュージカル映画になっている
・それに伴って作中の世界観が70年代と中世が合体事故を起こした感じになっている
という部分です。なんでだよ。
この大雑把な予告を見るとだいたいノリは分かっていただけると思いますが



当然のことながら原作には一切ない要素なので、これはもう監督か偉い人か誰か分からないけど映画作った人の趣味だと思うんですけど。 内容見てると概ねティーン向けの映画だと思うんだけどいいのかこれで。
まずオープニングからエレクトリック・ライト・オーケストラのStrange magicですからね。洋楽知識ほぼゼロなのにどっかで聞いたことある曲だなと思ってしばらく首をひねってたんですけど『ヴァージン・スーサイズ』の予告で使われてた曲ですね。まああれは原作からして音楽指定されてるんでいいんですけどなんでシンデレラのパロディ映画が『ヴァージン・スーサイズ』と同じ選曲になるんだよ。

細かく色んな曲が使われていますが、オリジナル音源のBGM使用でなく作中で主人公が歌う重要な曲はQueenのSomebody to loveと、エルトン・ジョンとキキ・ディーのデュエット曲Don't go braking my heartです。
ミュージカルシーンはMovie Clips にあるのでyoutubeで見ることができます(合法)。


「Somebody to love」 これでピンときたら視聴をお勧めする

  
「Don't go braking my heart」 とてもたのしそう
(ネタバレもクソもないような作品ですが一応ラストシーンなので注意)

まあどっちも映画観るまで知らない曲だったんですけど、本編見るとちゃんと歌詞がきっちりシーンに合った完璧な選曲がされていることが分かり、中々見事なものです。他にもこの辺りの洋楽文化に詳しい方ならニヤリとできる要素がたくさんあるのではないでしょうか。

あと関連作品というか、影響を受けてる先として間違いなく『エバーアフター』があります。原作にはなかった王位継承に意欲のない王子を導き、目覚めさせるヒロインという描写がわりと本当にそっくりで、並べてみるとふわっとシンデレラ映画の系譜を感じることができます。
つまり、原作である『さよなら、「いい子」の魔法』と『エバーアフター』を足して4くらいで割った後にできた空白に60年代ポップソングをギチギチに詰め込んだような作品です。どう考えても楽しい。

本編は割と脳味噌をからっぽにしてぼーっと見られる感じの映画です。社会的なネタなども織り交ぜつつ、しかし細けぇことは良いんだよ!とばかりに音楽とノリと勢いで突破していく感じは好感が持てますが原作はそんなこともないんで原作者とか原作ファンはこれで納得したのかな……
めんどくさい呪いをかけられているけど気合いでなんとかする上にめっちゃ殴り合いに強いヒロイン・エラ、良い人だけどちょっとアホの子がすぎる、けどめっちゃ殴り合いに強いしちゃんと成長するチャー王子、喋り方が完全にディズニーアニメ悪役のソレで本当に三次元か不安になってくる完成度の高い悪役・伯父上、便利なようで実はクソほども役に立ってない喋る本、邪悪なドラえもんみたいなキャラデザの食人鬼、巨人娘と妖精さんの体格差バカップル、オープニングに一瞬出てくるだけなのにジャケットにちゃっかりいらっしゃる一角獣さんなど色んな意味で濃いキャラが揃っています。
特に映画版完全オリジナルキャラクターである悪い叔父様(王子の父の弟)は、どう考えても物語を単純な勧善懲悪化してしまうディズニー的悪い癖によって生み出されたキャラなのにとても魅力的かつ、原作の終盤に見られる小説だから可能だった「エラの懸念」の表現を映画に落とし込むための最適解として映画の中で輝いていました。叔父様が画面にいると必ず面白くなるのずるい。
吹き替えもとてもよかったです。特にヘビさん。

ディズニーも最近行動力のある現代的なプリンセスの制作に力を傾けているようですが、この作品のエラちゃんはそういう意味でも中々素晴らしく新時代のヒロインしてたと思います。

まあ唯一のオリジナル曲であるエンドロールの「It's just make believe」が歌詞の内容でそれらの要素を台無しにしていてちょっとどうかと思うんですけどね!曲としては楽しそうで好きなんだけど歌詞!

しかし小さい子が見ても大きいお友達が見てもそれなりに楽しめそうな安心安全アホな内容で、かつ特定の音楽が大好きな一部の大きいお友達が見るとすごく楽しい、エンターテイメント性の高い良作だと思います。これ以上何も考えたくない時にいかがでしょうか。

クソ邦題にもある通り、「シンデレラ」であるエラ役はアン・ハサウェイ。
ウィキペディアにプリティ・プリンセスで売れて以来いわゆるプリンセス役ばっかりで悩んだみたいなこと書いてあったけど作品リスト見てもあれ以外だとプリンセス映画らしきものってこれだけじゃね―かな……。厳密に言うとこの映画のシンデレラは王子様と結婚後即王子の即位で王妃になるはずなのでプリンセス期間ないですけど。
まあ実際「プリンセス」やるのに説得力のある圧倒的なかわいさなんですけど、馬に乗るわドレス姿での戦闘はあるわ歌うわ踊るわでプリンセスになるのにはいろんなスキルが要って大変だなあと思いました。長い髪をひらひらさせながらのバトルシーンやダンスシーンは問答無用で目に楽しい。

チャー王子役はヒュー・ダンシー。
この作品を見るちょっと前にドラマ『ハンニバル』にドハマリしたんですが、作風のギャップが激しすぎてお名前を照合するまでグレアムさんと同じ人だって気付きませんでした。10年の月日は人を王子様から被虐体質の捜査官に変える。
『ハンニバル』では大体曇りっぱなしなのでこっちで楽しげに踊ってるとこと交互に見ると落差で楽しいですね。地獄のセット視聴おすすめです。


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