2016年6月1日水曜日

マレフィセント


童話パロディと呼ばれるものには名前借りただけじゃねえかぶち殺すぞみたいなやつとか下ネタ突っ込んだだけじゃねえかぶち殺すぞみたいなやつとか色々あるわけですが、稀にすごくパロディとしても物語としても出来のいい作品もあって、特にドナ・ジョー・ナポリの作品なんかは安定して面白いと思います。

中でも『逃れの森の魔女』はとびぬけた傑作で、二百ページほどの短い物語の中で『ヘンゼルとグレーテル』の魔女がなぜ生まれ、そして何故あんな結末を迎えることになったのか、という壮大な裏話が見事に納得のいく形で捏造されていました。

ドナ・ジョー・ナポリは他の作品でも魔女を主人公に魔女目線での童話の顛末を書いていることが多く、まあその辺は一方的に悪役にされてきた魔女の色々とかちょっとフェミニズムっぽい色とか色々あるわけですが、その辺は現代から見た童話の再解釈としてはものすごく面白く妥当なものだと個人的には思っていて、ともかく『マレフィセント』の登場でディズニーもようやく『逃れ』みたいなお話が創れるようなったのかと感心していました。


実際見てみたらそんなことはなくて結局ディズニーはディズニーでした。


まず『マレフィセント』の基になった『眠れる森の美女』は、一応元々存在する童話を基にしたことになってますが、わりかしオリジナル成分が多く含まれています。幼い頃に見て「百年寝てねえじゃん!」って元気よく突っ込んだのはいい思い出です。
一晩くらいしか寝てない眠り姫という新しいジャンルを打ち出したのは勿論、何故かドラゴンと王子様の壮絶なバトルなんかが挿入されていて、通常の童話ではクソほどの役にも立たない王子様が中世騎士物語の騎士程度には見せ場があるという作品でもあります。フィリップ王子地味にディズニープリンセスものの中では相当身体張ってる王子様だと思います。

『マレフィセント』は童話からの、ではなくディズニーアニメ『眠れる森の美女』からの映画化なので、まあこれに忠実なお話になり、なんだかんだドラゴンと王子様が戦うんだろうな、と思ってました。


実際見てみたらそんなことはなかったです。


マレフィセントを善人として描くために、王様はドクズになり、三人の妖精はド無能になり、王子様はクソの役にも立たない存在になったわけです。キスしても相手が目覚めない王子様なんて白雪姫の王子様よりも役に立ってないのでディズニークソの役に立たない王子様ランキングの堂々たる一位に就けるレベルです。ドラゴン退治の王子様が魔法で空中浮遊させられてるだけの存在になってるのすごい……

ディズニーは「悪人」を作らないと気が済まない、っていうのがかなりの悪癖だと思っていて、例えば『リトル・マーメイド』なんかは最後をハッピーエンドにしてしまったということよりも「悪い魔女」を生み出してしまったことが問題じゃないかと個人的には考えています。
アンデルセンの『人魚姫』は、実は悪人の出てこない作品です。 魔女は皆に嫌われている不気味な存在かもしれないけど、作中では人魚姫との取引に応じただけであり、けして悪人としては描かれていません。王子も、勿論隣の国の王女も悪人ではないので、あの悲劇で一体誰が悪かったか、という話になれば一番悪いのは人魚姫だと思います。というかまあ実際水の泡エンドだったとしても自業自得です。
そこにディズニーは「悪巧みする邪悪な魔女」を作り、それを打倒すハッピーエンドを用意してしまった。原作の過剰に宗教的な要素を打ち消すためにそのままの話で作るわけにはいかなかったんだろうけど、意味不明に悪役を負わされてしまった魔女のことを考えると色々納得のいかない話ではあります。
マレフィセントもまた、ディズニーに作られてしまった邪悪な魔女と言えるでしょう。
元々の童話では、王女に呪いをかけるのは、誕生祝いに呼ばれなくてなんか腹立ったのでノリでかけたようなものであり、たぶんあの人自分の命かけてまでお姫様に粘着したりしないと思うんですよね。
まあ童話の登場人物の行動なんて真面目に考えても仕方ないんですけど。
でもなんかそこまで、読者が思う程彼女はお姫様のことを特別に思ってないんじゃないかと。妖精なんて自然災害みたいなものだし。
ヒロインと悪役って構図があるからマレフィセントがオーロラにすごい粘着っぷりを見せていてもなんかそこまで違和感ないようで、よく考えるとなんでこの人そんな必死なの……ってなる感じがこう。
で、だからそのオーロラへの粘着の理由を父親との因縁とか、あとはまあ育ってるのを見て母性がわいたとかなんかそういうのをつけてきたのはすごい面白いなと思いました。

でもだからって王様がドクズ野郎でドクズ野郎のまま無残に死ぬ話にしなくてもいいだろ……結局対象が魔女から父親になっただけでやってること変わらないじゃん……アニメの時の楽しい王様はどこ行ったの……

個人的に期待してたのはマレフィセントの内面も描きつつ、しかしなんやかんやで王子に倒されてやることでオーロラを開放するてきななんかこう……いちおうアニメのオチと繋がる方向のこう……それこそ逃れの森の魔女的な……まさかここまで脱線したまま線路なんぞ知るかとばかりに突っ走って知らないところに至る映画だとは思ってなかったんで後半ずっと置いてけぼりな気分ではありました。

なお長々と書きましたが個人的にこの作品はそれなりに面白かったと思ってます。相変らずディズニーはディズニーだなと思いながらも昔の作品と比べると確実に色々マシになってるし、映像的にもぼんやり楽しかったし。こっちが期待しすぎたのが悪いだけだし。ロリ時代のマレフィセントちゃんのデザイン最高だったし。ロリフィセント主人公でスピンオフ二時間映画ください。

今後まだ色々な実写枠を抱えているようなのでじわじわマシになっていくことを期待しつつ基本的にはさすが金かかってんなーくらいのノリで観ようと思ってます。

ケリー・ザ・ギャング

ケリー・ザ・ギャングのゆかいな仲間たちを紹介するぜ!
人妻を寝取ってる間におうちが大変なことに!リーダー、ネッド・ケリー!
女装して幼馴染を殺す!人妻寝取るマン!
お兄ちゃんについて行ってたら死んだ!ケリー弟!
何かいつのまにか家にいた人!
以上だ!


人妻寝取るマンが二人いるせいで知人に「なんでお前の勧める映画は人妻寝取ってばっかりなんだ」って言われたけど『トロイ』はしょうがないだろトロイは。

原題は「Ned Kelly」。実在したブッシュレンジャー、ネッド・ケリーとたのしいなかまたちを主人公にしたオーストラリア映画です。
ネッド・ケリーはオーストラリアでは超有名人らしいので、おそらくその人生についてある程度知っていること前提で見る映画だと思います。こう、二時間スペシャル坂本竜馬的な……
物語の始まりから終わりまで、ネッドさん15歳から25歳までの十年間を全てヒース・レジャー一人で賄うというあたりも二時間スペシャル時代劇感あります。
一応原作が存在して、「Our Sunshine」という本らしいのですが、日本語訳がないためこれがどの程度忠実な伝記なのかはちょっと分かりません。確実に史実ではなさそうな部分が幾らかあるんですが、この本で盛ってある要素なのか映画化にあたって盛ってあるのかも不明です。

例えば息を吸うように人妻寝取るあたりとか、ロマンスの展開としてはド王道なんで仕方ないけど終盤一切絡まないので創作かなーと思ったりしてます。詳しくないので史実だったらごめんなさい。
あと幼馴染絡みの色々とかはけっこう創作入ってるんじゃないかなって気がしました。あの辺はすごい綺麗につながってて好きです。

舞台は1870~1880年で、衣装みると主人公たちがジーンズ穿いてるシーンがあるのであー近代だなーって感じがするんですが基本移動手段馬だし最後は甲冑着て戦うしこれもしかして中世騎士物語なのでは?って感じになりますね。実際筋立てとしてはそんな感じのところも多いんですけど。

この手のアウトローってアメリカのビリー・ザ・キッドなんかが有名ですが、あっちは改めて読むと割とただのクズなのに対してこっちは比較的ヒーローやってるんでけっこう性質が違いますね。日本でもケリーさんもうちょい有名になってもいいんじゃないかなって思いながら観ました。

ちょっと変わった部分として、死の描き方。この作品には三回「死」を描いたシーンがあります。その三つともがとても印象的で、すごく辛いシーンになっています。
全てのきっかけになる警察殺し、唯一の警察以外へ行った殺人である友人殺し、そして最後の戦い。なすすべなく虐殺されていく一般市民。おそらく親友を射殺した時の影響もあり、積み重なる一般市民の死体を見て精神に異常を来たして撃ち抜かれるジョー、銃弾からは逃れたものの、炎に捲かれて逃げられず、泣きながら自害する弟たち。これらのシーンもなんかもっと英雄的に描けたはずだけど、そうはしない。序盤の敵対していた相手が死ぬシーンさえ、というかむしろそこが一番かと思うくらい、とても見ていて辛い仕上がりになってるんですよね。これはこの作品の重要な特徴だと思います。
流れるように行われる強盗など通常シーンの軽やかさと、死を描いたシーンの異常な重さのギャップ。少し不思議な感覚のある作品ですが、ここがかっちりとハマれば、きっとこの作品のことが好きになるでしょう。

ところでこの映画バルボッサ的な警視総監とターナーくん的なジョーさんが出てるんですが、この映画の撮影時に既にバルボッサに決まっていた警視総監が現場に台本持ち込んでてそこのつながりでジョーさんがターナーくんになったらしいですよ。こっちの映画だとアウトロー側と体制側というかが逆な感じで微妙に面白い。

2016年2月23日火曜日

アン・ハサウェイ 魔法の国のプリンセス


この作品『Ella enchanted』(2004)、直訳するとごく普通に『魔法にかけられたエラ』なんですけど映画版は『魔法の国のプリンセス』、原作も『さよなら「いい子」の魔法』というなんかすごい邦題になっています。
映画邦題についてはDVDが発売されたのが割と最近の2013年なので、2007年のディズニー映画『Enchanted』=『魔法にかけられて』との混同を避けたかったのかもしれないんですが、それにしても魔法の国は百歩譲っていいとしてもプリンセスはないんじゃないかな……主人公お姫様じゃないし!ネタの傾向としては分かりやすいけれども!
なおdビデオストアで配信されてるバージョンは『魔法にかけられたエラ』ってまともなタイトルなんですけどこっちは字幕翻訳がすごくすごすぎてそれはそれで問題があります。どうしてそうなったの……

原題・邦題どちらもタイトルだけでは分かりにくいですが、『シンデレラ』を下敷きにした作品です。
ディズニー傘下だったミラマックスの作品なので、ある意味「ディズニー実写シンデレラ」枠では2015年のアレの先輩にあたるのかもしれません。まああんなにお金かかった作品ではないですけど。
原作が絶版でお値段がそこそこに高騰してて手が出なかったんですが、近所に児童書に強い公立図書館があったのでなんとか読むことができました。

まあ要するに『シンデレラ』を下敷きにした物語を書こうとした作者が、原作シンデレラっていい子すぎね?という疑問を抱いて、「いい子のシンデレラ」の物語でなく「いい子にならざるを得ない呪いをかけられているシンデレラ」の物語を書いた、というものです。
現代における童話パロディ本には比較的よくあるパターンのものと言っていいでしょう。しかし説教臭くなりすぎてあんまり面白くないものも多い童話パロディジャンルにおいて、そこそこ面白さと説教臭さのバランスが取れている、ヤングアダルト小説としてそれなりに良作と言える作品だと思います。手元に欲しいので是非とも再販していただきたい。

で、この映画はそれを素直に映画化した作品かというと一切そのようなことはなく、謎の付加要素が加わっています。
まあ映画化するにあたって仕方なかったんだろうなみたいな簡略化もたくさんあるのですが、何を意図して付けたのか分からない部分があって、
主には
・60年代から70年代のポップソングがふんだんに使われたミュージカル映画になっている
・それに伴って作中の世界観が70年代と中世が合体事故を起こした感じになっている
という部分です。なんでだよ。
この大雑把な予告を見るとだいたいノリは分かっていただけると思いますが



当然のことながら原作には一切ない要素なので、これはもう監督か偉い人か誰か分からないけど映画作った人の趣味だと思うんですけど。 内容見てると概ねティーン向けの映画だと思うんだけどいいのかこれで。
まずオープニングからエレクトリック・ライト・オーケストラのStrange magicですからね。洋楽知識ほぼゼロなのにどっかで聞いたことある曲だなと思ってしばらく首をひねってたんですけど『ヴァージン・スーサイズ』の予告で使われてた曲ですね。まああれは原作からして音楽指定されてるんでいいんですけどなんでシンデレラのパロディ映画が『ヴァージン・スーサイズ』と同じ選曲になるんだよ。

細かく色んな曲が使われていますが、オリジナル音源のBGM使用でなく作中で主人公が歌う重要な曲はQueenのSomebody to loveと、エルトン・ジョンとキキ・ディーのデュエット曲Don't go braking my heartです。
ミュージカルシーンはMovie Clips にあるのでyoutubeで見ることができます(合法)。


「Somebody to love」 これでピンときたら視聴をお勧めする

  
「Don't go braking my heart」 とてもたのしそう
(ネタバレもクソもないような作品ですが一応ラストシーンなので注意)

まあどっちも映画観るまで知らない曲だったんですけど、本編見るとちゃんと歌詞がきっちりシーンに合った完璧な選曲がされていることが分かり、中々見事なものです。他にもこの辺りの洋楽文化に詳しい方ならニヤリとできる要素がたくさんあるのではないでしょうか。

あと関連作品というか、影響を受けてる先として間違いなく『エバーアフター』があります。原作にはなかった王位継承に意欲のない王子を導き、目覚めさせるヒロインという描写がわりと本当にそっくりで、並べてみるとふわっとシンデレラ映画の系譜を感じることができます。
つまり、原作である『さよなら、「いい子」の魔法』と『エバーアフター』を足して4くらいで割った後にできた空白に60年代ポップソングをギチギチに詰め込んだような作品です。どう考えても楽しい。

本編は割と脳味噌をからっぽにしてぼーっと見られる感じの映画です。社会的なネタなども織り交ぜつつ、しかし細けぇことは良いんだよ!とばかりに音楽とノリと勢いで突破していく感じは好感が持てますが原作はそんなこともないんで原作者とか原作ファンはこれで納得したのかな……
めんどくさい呪いをかけられているけど気合いでなんとかする上にめっちゃ殴り合いに強いヒロイン・エラ、良い人だけどちょっとアホの子がすぎる、けどめっちゃ殴り合いに強いしちゃんと成長するチャー王子、喋り方が完全にディズニーアニメ悪役のソレで本当に三次元か不安になってくる完成度の高い悪役・伯父上、便利なようで実はクソほども役に立ってない喋る本、邪悪なドラえもんみたいなキャラデザの食人鬼、巨人娘と妖精さんの体格差バカップル、オープニングに一瞬出てくるだけなのにジャケットにちゃっかりいらっしゃる一角獣さんなど色んな意味で濃いキャラが揃っています。
特に映画版完全オリジナルキャラクターである悪い叔父様(王子の父の弟)は、どう考えても物語を単純な勧善懲悪化してしまうディズニー的悪い癖によって生み出されたキャラなのにとても魅力的かつ、原作の終盤に見られる小説だから可能だった「エラの懸念」の表現を映画に落とし込むための最適解として映画の中で輝いていました。叔父様が画面にいると必ず面白くなるのずるい。
吹き替えもとてもよかったです。特にヘビさん。

ディズニーも最近行動力のある現代的なプリンセスの制作に力を傾けているようですが、この作品のエラちゃんはそういう意味でも中々素晴らしく新時代のヒロインしてたと思います。

まあ唯一のオリジナル曲であるエンドロールの「It's just make believe」が歌詞の内容でそれらの要素を台無しにしていてちょっとどうかと思うんですけどね!曲としては楽しそうで好きなんだけど歌詞!

しかし小さい子が見ても大きいお友達が見てもそれなりに楽しめそうな安心安全アホな内容で、かつ特定の音楽が大好きな一部の大きいお友達が見るとすごく楽しい、エンターテイメント性の高い良作だと思います。これ以上何も考えたくない時にいかがでしょうか。

クソ邦題にもある通り、「シンデレラ」であるエラ役はアン・ハサウェイ。
ウィキペディアにプリティ・プリンセスで売れて以来いわゆるプリンセス役ばっかりで悩んだみたいなこと書いてあったけど作品リスト見てもあれ以外だとプリンセス映画らしきものってこれだけじゃね―かな……。厳密に言うとこの映画のシンデレラは王子様と結婚後即王子の即位で王妃になるはずなのでプリンセス期間ないですけど。
まあ実際「プリンセス」やるのに説得力のある圧倒的なかわいさなんですけど、馬に乗るわドレス姿での戦闘はあるわ歌うわ踊るわでプリンセスになるのにはいろんなスキルが要って大変だなあと思いました。長い髪をひらひらさせながらのバトルシーンやダンスシーンは問答無用で目に楽しい。

チャー王子役はヒュー・ダンシー。
この作品を見るちょっと前にドラマ『ハンニバル』にドハマリしたんですが、作風のギャップが激しすぎてお名前を照合するまでグレアムさんと同じ人だって気付きませんでした。10年の月日は人を王子様から被虐体質の捜査官に変える。
『ハンニバル』では大体曇りっぱなしなのでこっちで楽しげに踊ってるとこと交互に見ると落差で楽しいですね。地獄のセット視聴おすすめです。